障害者虐待防止法は、平成23年6月17日成立し、同6月24日公布、平成24年10月1日から施行されました。同法律は、障がい者に対する虐待は、障がい者の尊厳を害するものであり、障がい者の自立及び社会参加にとって障がい者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等に鑑み、障がい者に対する虐待の禁止、国等の責務、障がい者虐待を受けた障がい者に対する保護及び自立の支援のための措置、養護者に対する支援のための措置等を定めることにより、障がい者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって障がい者の権利利益の擁護に資することを目的としています。
1 障がい者とは、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)などの心身の機能の障がいがある方に加え、障害者総合支援法では、一定の難病等による障がいがある方も対象とされています。
2 「障がい者虐待」とは、次の3つを言います。
①養護者による障がい者虐待
②障害者福祉施設従事者等による障がい者虐待
③使用者による障がい者虐待
3 障がい者虐待の類型は、次の5つ(具体的要件は、虐待を行う主体ごとに微妙に異なります。)
①身体的虐待(障がい者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること)
②放棄・放置(障がい者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置等による①③④の行為と同様の行為の放置等)
③心理的虐待(障がい者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の障がい者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと)
④性的虐待(障がい者にわいせつな行為をすること又は障がい者をしてわいせつな行為をさせること)
⑤経済的虐待(障がい者から不当に財産上の利益を得ること)
「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準」等には、緊急やむを得ない場合を除き身体拘束等を行ってはならないとされています。さらに、やむを得ず身体拘束等を行う場合には、その様態及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録しなければならないとされています。
緊急やむを得ない場合とは・・・ ※以下のすべてを満たすこととされています。
①切迫性
利用者本人又は他の利用者等の生命、身体、権利が危険にさらされる可能性が著しく高いことが要件となります。
②非代替性
身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する方法がないことが要件となります。
③一時性
身体拘束その他の行動制限が一時的であることが要件となります。
やむを得ず身体拘束を行うときにやるべきことは次のとおりです。
1)組織による決定と個別支援計画への記載
2)本人・家族への十分な説明
3)行政への相談、報告
4)必要な事項の記録
要件をすべて満たしても、手続きを踏んで、安易に行わず、慎重に判断する。常に「誰のため」「何のため」「本当に他に方法はないのか」等、「繰り返し自問する(疑問を抱き続ける)」ことが大切です。
身体拘束廃止未実施減算の適用要件を介護保険サービスと企画してみた表が次のとおりです。

ここで、厚生労働省の障害福祉サービス等報酬に関するQ&Aを紹介します。(平成31年3月29日)
| 質問 | 回答 |
| 身体拘束廃止未実施減算について、適用にあたっての考え方如何 | 身体拘束の取扱いについては、以下の参考において、示されているところであるが、やむを得ず身体拘束を行う場合における当該減算の適用の可否にあたっては、これらの取扱いを十分に踏まえつつ、特に以下の点に留意して判断いただきたい。 ⃝ 利用者に係る座位保持装置等に付属するベルトやテーブルは、脊椎の側わんや、四肢、関節等の変形・拘縮等の進行あるいは防止のため、医師の意見書又は診断書により製作し、使用していることに留意する。 ⃝ その上で、身体拘束に該当する行為について、目的に応じて適時適切に判断し、利用者の状態・状況に沿った取扱いがなされているか。 ⃝ その手続きについては障害福祉サービス等の事業所・施設における組織による決定と個別支援計画への記載が求められるが、記載の内容については、身体拘束の様態及び時間、やむを得ない理由を記載し、関係者間で共有しているか。 ⃝ なお、ケア記録等への記載については、必ずしも身体拘束を行う間の常時の記録を求めているわ けではなく、個別支援計画には記載がない緊急やむを得ず身体拘束を行った場合には、その状況 や対応に関する記載が重要である。 ⃝ 行動障害等に起因する、夜間等他利用者への居室への侵入を防止するために行う当該利用者居 室の施錠や自傷行為による怪我の予防、保清を目的とした不潔行為防止のための身体拘束につ いては頻繁に状態、様態の確認を行われている点に留意願いたい。 ⃝ これらの手続きや対応について、利用者や家族に十分に説明し、了解を得ているか。等 ⃝ なお、身体拘束の要件に該当しなくなった場合においては、速やかに解除することについてもご留 意願いたい。 以上を踏まえ、最終的には利用者・家族の個別具体的な状況や事情に鑑み、判断されたい。 |
障がい福祉サービス事業所における虐待防止委員会の例をご紹介します。

厚生労働省では、身体拘束等の適正化のための体制整備に向けたチェックリストを作成しているので各事業所においても確認することが必要です。

小規模事業所の体制整備等における効果的な取り組みのポイントについては、各カテゴリーごとに次のようなことが考えられるとされています。
1 身体拘束等を行う場合の必要事項の記録
・記録に必要な書式・様式等は、ゼロベースで作成することのみならず、本事例集に紹介されている様式や公表資料等から雛形を入手し、それをたたき台にして検討を進める。
2 身体拘束等の適正化のための対策を検討する委員会の開催
・身体拘束適正化委員会は、法人単位で委員会を設置し、法人が運営や取りまとめをサポートする。
・身体拘束適正化委員会は、虐待防止委員会と関係する職種等が相互に関係が深 いと認めることも可能であることから、虐待防止委員会と一体的に設置・運営する。
・既存の会議体や委員会(定期的な事業所での会議やケースカンファレンス等)の開催に併せて身体拘束適正化委員会を実施する。
・身体拘束適正化委員会は実地での開催に限定せず、オンライン会議等を使用し、 第三者が参加しやすいように工夫する。
※第三者は、医師等の専門家のみならず、自立支援協議会を構成する他事業所等も当たると考えられる。
3 研修の実施
・身体拘束に関する研修情報を行政機関や基幹相談支援センター等から収集し、それらの機関が実施する研修機会を積極的に活用する。
・域内で積極的に身体拘束に関する研修を行っている大規模な事業所や法人等があれば、当該事業所が開催する合同研修に参加する。
・研修に参加できなかった職員に対しては、研修を録画し、その視聴を促したり、 研修の参加者が所内で研修に参加しない職員への伝達研修を実施したりする。 あるいは外部研修をもとに事業所所内で研修を実施する。
研修等については、厚生労働省が作成している動画や資料を活用することも可能です。
令和7年度障害者虐待防止・権利擁護指導者養成研修 資料・動画
しかしながら、ただ単に動画を見るだけではおざなりな研修で終わってしまいます。管理者等が研修の意義と重要性について、自らの言葉で説明すると共に、職員間での議論を行うなど実のあるものにする必要があります。
4 指針の整備
・身体拘束等の適正化のための指針等は、ゼロベースで作成することのみならず、 事例集に紹介されている様式や公表資料等から雛形を入手し、それをたたき台にして検討を進める。
以上、障がい福祉サービス事業における身体拘束の適正化について見てきました。身体拘束は原則禁止でやむを得ず行わないといけないことで、実施にあたっては、相当の理由があること、組織で決定したということ、関係者に十分説明すること、記録を取ること、関係先の報告をすることが必要です。何より、利用者の人権を最優先に考えつつ、職員の健康や安全にも配慮する必要があると考えています。記録は一時的なものではなく、日頃から継続的に取る必要があります。







